バイトする上で大切なこと

これは、親子二人でご来店されたお客様(母親の方。以下、「お母さん」とします。)が、私の仕事に対する考え方を大きく変えてくれたというお話です。これからアルバイトを始める方には、是非読んでいただきたいと思います。

半年ほど前、現在も続けているお弁当屋さんでのアルバイトの最中、私がレジ周りを整理整頓していた時、そのお客様は親子でご来店されました。

いつも通り注文を取り厨房へ引き返した私は、何やらレジ付近からこちら覗き込むようなお母さんの態度が気になりました。私はレジへと向かいお母さんへ「どうかなされましたか。」と尋ねました。

すると、お母さんは私の目を見つめながら「あんな対応されて、少し悲しかった。」と言うのです。突然のことで私も状況が読み取れず、しばらくあくせくしていたのですが、なんとか落ち着きを払い「詳しく教えていただけませんか。」と尋ねました。

つまるところ、以前、私が勤める店舗で受け取ったお弁当に入れ忘れがあったため、お店に電話を掛けたところ、適当な返答をされたことに心を痛めたそうなのです。

普通であれば、そうしたクレーム対応にはお客様も激昂して、何かと反論をぶつけてくるものなのですが、一方的に悲しまれているそのお母さんを見ていると、これは、放っておけないと判断し、私はお母さんをお店の外へ誘導し、詳しく話を聞くことにしました。

入れ忘れがあったお弁当は、お店の商品の中でも比較的多くの品が入ったもので、お母さんはその中の「サバの塩焼き」が入っていなかったことに対しお店へ電話をしたとのことでした。

「またか...」と私は思いました。そのお弁当は、度々中身の入れ忘れなどで多くのお客様から指摘を受けていた商品でもあったのです。

ですが、そのお母さんは入れ忘れがあったことに対しては、「人間だからミスは当然だし、入れ忘れだって仕方ない。」と、こう言ったのです。

私は一層申し訳なく感じました。そして、お母さんは、その後こう言葉をつないだのです。「私はクレームを入れたつもりはないの。ただ、以前からそのお弁当が好きで、特にその中にあるサバの塩焼きがいつも楽しみで。

だから、もし中身が変わったのなら、そう伝えてほしかったし、入れ忘れなら謝罪の言葉が一つあればそれで十分だった。」と。頭ごなしに店員へ対し罵詈雑言を浴びせてくる人もいる中で、ここまで店員へ寄り添ってくれるお客様に会ったのは初めてでした。

私は店側の怠慢を恥じました。そして、再度お詫びの言葉を述べました。

一連の事情が判明し、そのお母さんは「言いたかったことは全部言えたから、すっきりしました。これからもよろしくお願いします。」と言葉を残し、注文されたお弁当をもってお店を去りました。

思い返せば、先ほど、連れていた息子さんが「もういいだろ。喋りすぎだから。迷惑だって。」と、横からお母さんを制していた姿が、これまた店員側への配慮のように感じられ、つくつぐ素敵な親子だなと感じだことを今でも覚えています。

私は、大切なことをこの親子から学びました。それは「何気ないことが、相手にはとても大切なこと」だということです。

一見、入れ忘れなどよくあることだと片付けがちですが、その入れ忘れたものが当人にとって愛して止まないものだとしたら、一番の楽しみだとしたら、決して適当に済ましてよいことなどありません。

相手に寄り添うこと、相手の立場に立って考えることは、相手を大切に思うことの証であり、相手も大切にされているのだと感じ安心感を得ることができます。

その親子の何気ない言動が、現に私を安心させたことは事実です。ならば、それらをお客様に実践し、今度はお客様を安心させることができるよう、お返ししていかなければと、私は考えるようになりました。

あの親子の姿を、あれ以来、目にしたことはありませんが、いつか会えたら、感謝の言葉をもう一度述べたいと思います。「大切なことを気づかせてくれて、ありがとう。」と。

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